シリーズ『新時代を担う若き社員の挑戦』。
長崎県内で若い方が、それぞれの個性や能力を生かして様々なフィールドで活躍しています。
第4回は、スタートアップ企業の「株式会社LAplust」。
これまでに培ったものづくりの技術とマーケティングのノウハウを活かして地域の課題解決に貢献。
先輩の姿から自分自身が長崎でキラキラと輝く未来をイメージしてみませんか。
AIやIT技術を活用した農業支援に取り組むベンチャー企業「LAplust」。佐世保工業高等専門学校を卒業したメンバーが集まり2019年に発足しました。昨年、会社の拠点を関東から長崎に移行。自らもUターンした取締役の原崎さんは、主にマーケティングや広報を担当。農家の方やJA、行政から農業現場の課題を丁寧にヒアリングし、時には自ら農場に足を運んで、開発スタッフとともに解決策を見つけ出します。ものづくりの世界からマーケティングの道に進んだきっかけ、就職から起業にいたるまでの経緯、長崎にUターンして感じることなどについてお話を伺いました。
株式会社LAplust
原崎 芳加さん
COO(取締役)
長崎県佐世保市出身 起業4年目
農業支援アプリのAIを開発し生産性を向上
Q.まずはLAplustの事業内容と、原崎さんが担当している業務について教えてください。
主な事業内容はAIやIT技術を活用した農業支援で、国内最大手の営農支援・管理アプリ「アグリハブ」には、当社で開発したAIが使用されています。具体的な機能として、例えば農作物が病気になると葉っぱに異常が発生します。それを農家の方が見つけても、すぐに原因となる病名が判断できない場合もあります。専門家に依頼すると数日かかり、適切な対応まで時間が必要です。そこでスマートフォンから「アグリハブ」を使って葉っぱの画像を撮影すると、AIがその場で病名をすぐに判断。効果的な薬剤まで案内してくれます。こうした画像認識の部分に、当社の開発したAIが活用されています。
私はLAplustの取締役として、主にマーケティングや広報PR、農家の方や行政との橋渡し役を担っています。自分たちは農業の素人なので、仕事をする上ではとにかくヒアリングが重要です。現場の課題を把握するために、農場やビニールハウス、県内の農業試験場を訪ねることもあります。農業は高齢化や担い手不足などが深刻で、いろんな方の意見を聞きながらITベンチャーとして課題解決の力になりたいです。
Q.農業分野でのIT技術の普及は、最近いろんなニュースでも目にする機会が増えました。
ドローンによる農薬散布など注目される機会は増えましたが、農業分野におけるDX化はまだまだごく一部でしか実現していません。実証実験という形では広がり技術的には可能となりましたが、実際に導入するためにはコストの問題や使いやすさ、土壌などの個別の環境対応など、クリアするべき課題はたくさんあります。だからこそ、可能性のある分野だと考えています。
すでに県内で普及している分野もあります。例えばビニールハウス内の温度や湿度をセンサーで管理して、最適な水やりを自動で行う環境制御システムは、県内のイチゴ農家で盛んに取り入れられています。同じ面積から収穫できるイチゴの量が増えたというデータもあります。今後はイチゴの花の開花状況をAIで把握することで、収穫時期を予測するシステムも検討中です。
仲間と長所を発揮し合い、社会に貢献する起業
Q.佐世保市出身で、佐世保工業高等専門学校に進学した原崎さん。小さい頃からものづくりには興味があったのでしょうか。
休日に親と日曜大工をするのが楽しくて、ものづくりに惹かれるようになりました。地元の佐世保高専時代は、とにかく充実した5年間でしたね。友人たちは車が好きだったり、パソコンが好きだったり、とにかく個性的で好き嫌いがハッキリしていましたが、根っこの部分でものづくりが好きという共通点がありました。専門的な勉強は大変でしたが、みんなで支え合って切り抜けました。ただ、当時は起業なんて全く想像もしていませんでした。
いろんな人や情報に触れたい気持ちから上京を目指し、東京農工大学工学部に3年次編入。そのまま大学院まで進みましたが、思うように研究に打ち込めず、時間を持て余していました。このままじゃダメだと思っていた時、文科省の起業家育成プログラムの存在をたまたま知って、軽い気持ちで参加しました。そこで売り物ではなく、売り先・売り方、つまりマーケティングについて学んで、未知の領域だったのもありすごく面白かったんです。それと同時に、佐世保高専時代の仲間は売り物を作ることができるので、自分が売り先・売り方を考えられたら、ビジネスとして社会に価値提供ができると感じました。
Q.ものづくりからマーケティングの道に転換するのは、珍しいケースだったのではないでしょうか。
そうですね。他の同級生の多くは研究開発職に就きました。私は最初から起業を見据えていたので、就職活動では新しい企画に携われる仕事を志望しながら、まずは具体的にやりたい事業を見つけたいと考えていました。そうした中で縁あって新卒入社した横河電機では、産業向けIoTを提供する新会社の立ち上げに携わることができました。サービスを運営する裏側を一通り経験することができて、まさに期待通りでした。
Q.そこから起業した経緯についても教えてください。
就職後もそのまま東京に拠点を置いていましたが、佐世保高専時代の友人たちとはずっと繋がっていました。帰省した際に、現在LAplustの代表を務めている田中くんと食事している中で、彼が独学でAIの勉強をしているという話を聞いたんです。田中くんは実家が農家で、島原半島の吾妻町でイチゴ栽培をしています。両親が苦労する姿を間近で見てきて、IT技術で支えたいという気持ちがあったようで、私から起業の話を持ちかけました。当時は横河電機に入社して3年目で、就業時間外にボランティアでLAplustの業務にあたる慌ただしい毎日でした。その後は退職し、現在は起業したLAplust一本に集中しています。
よく周囲からは「メンバーのバランスが取れているよね」と言われます。実際、僕はヒアリングしたり営業したりする方が得意なので、システムやAI の開発業務は自分の仕事に集中したい他のメンバーに任せています。まさに適材適所です。
Q.東京でLAplustを起業して、長崎にUターンした理由はどのようなものですか。
もともと通信環境とパソコン設備さえあれば場所を問わない業務内容だったのと、メンバー全員が地元に貢献したいという気持ちを常に持ち続けていたことが大きな理由です。システムやAIといった技術が形になるだけではなく、実際に誰かが使って「ありがとう」と言われたり笑顔になってもらえて初めて充実感が感じられます。それが地元だと、より一層恩返しできている気がして嬉しくなります。また長崎だと人との距離感が近く、目に見えて喜んでもらえてモチベーションが上がります。人数の少ないベンチャー企業なので、こうしたモチベーションや精神状態の安定性はすごく重要だと思います。もちろん、起業した時からグローバルに技術を提供することを目指しているので、最新の情報や技術を常に意識して井の中の蛙にならないよう心がけています。
スタートアップへの熱を感じる長崎で社会に貢献
Q.憧れていた東京での生活を経験し、現在は長崎で暮らしている原崎さんにとって、今の生活はいかがですか。
長崎がめちゃくちゃ自分に合っていると感じます。海があり、山があり、歴史的建造物がある。でもその特別感や大きな魅力は、一度外に出ないと実感するのが難しいかもしれません。今はすっかり気に入って、知り合いが長崎に来るときは全力でアテンドします。自作の観光パンフまで配りました。 それとUターンして感じるのは、予想以上にスタートアップ支援に対する熱量をもった人が多いことです。ここ数年、県内のいろんな場所でビジネスプランコンテストや起業家イベントが開催されています。それを後押しする行政の方の熱量も感じられて、盛り上がっていると思います。
Q.今後の仕事における目標を聞かせてください。
AIやIT技術を活用した取り組みは、農業だけではなく他の分野でも十分可能性があります。例えば工場の生産管理システムの導入など、製造業にも事業を展開しています。さらなる技術力向上やノウハウ蓄積を行いながら、最終的には起業した目的であるAI・IT技術による農業の課題解決を長崎から実現したいです。
Q.後輩へのエール
私が大事にしているのは「失敗は人生の積み立て」という言葉です。とにかく行動することを続けていれば、幸せになれると思います。そして自分がコントロールできることに集中することも大切です。元気に挨拶したり、メールを早く返信したり、目の前のやるべきことに集中しましょう。
長崎県は人口流出などの課題がありますが、ビジネスにおいては課題が大きければ大きいほど、解決した時のインパクトも大きくなります。私自身そうした考えで、長崎から全国に通用する技術を発信していきたいと考えています。
取材日/2023年3月7日 取材はソーシャルディスタンスに十分配慮した上で行ない、撮影時のみマスクを外しています