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まちブログ
長崎からエールを

自分にとって、似顔絵は人と人を繋ぐコミュニケーションツール。|「似顔絵art-TANO-」末次司さん

―名刺代わりに、PVを作ってほしい!

企業の営業マンではない。もっと言えば、ギター1本で歌う人でも、ドラマや映画に引っ張りだこの俳優でもない。それを口にしたのは、似顔絵師だった。

プロモーションビデオを制作すると考えたときに、僕の頭の中に浮かぶ候補のどれにも属さない職業。故に、突拍子もないことを言いだした!なんてことを思ってしまったのだ。

そんな突拍子もないことを口にしたのがこの男。

「似顔絵art-TANO-」こと末次司さん。長崎県唯一の協会公認似顔絵師だ。

(1枚目から似顔絵師っぽい写真じゃなくてごめんなさい。笑)

なぜ似顔絵師として独立したのか。

今からおよそ7年前、趣味で描いていた似顔絵をSNSで発信した。その反響がじわりじわりと広がりを見せ、気付けば知人伝いで「絵を描いてほしい」と依頼を受けるようになっていた。

このまま会社員として定年まで働くことが自分にとっていいものなのか。自分の似顔絵は人を笑顔にできる価値があるのか。そんな葛藤を抱えていた彼は、今でも自らの性格を「優柔不断な性格」だと語る。(先日ご一緒したランチではすぐにメニューを決めていたけれども。笑)

○○に入れば定年まで安泰、××の仕事に就けば死ぬまで食っていける……そんな言葉の効力が薄れてきている今、毎日バスに揺られて出勤しているサラリーマンですら安心できないこのご時世。転職ならまだしも、個人事業主になるのであれば、たった1人で火を起こし、それを燃やし続けなければならない。自らの仕事によほど自信がない限り即決は難しいはずだ。

とことん悩んだ結果、彼は似顔絵検定と占いに身を委ね、その結果を以て独立の判断をすることに決めた。それからというもの、検定は見事1発で合格し、占い師と会った際には、開口一番「独立、独立。さっさと1人でやりなさい。」と言葉をいただいたそうだ。

趣味の似顔絵で人を笑顔にできたこと、検定に合格できたこと、占い師の言葉に感化されたこと。彼はこのひとつひとつで「素敵な勘違い」をしたと笑う。

初めて似顔絵を発信して4年が経った2017年9月。

彼は、ついに似顔絵art-TANO-として独立を果たした。

(どんな時も、TANOしむことを忘れない。)

大人が考える「当たり前」の恐ろしさ。

独立をしたい。

この考えを人に話したとき、「アートで食べていけるの?」「考えが甘いんじゃない?」そんな言葉を浴びることも少なくなかった。転職をいくつか重ねた後の独立。この過程における彼の意志や夢、それらを知らない人たちが口を揃えたのだ。

―俺と働いてきた仲間は、そうじゃなかった。

過去にガソリンスタンドやアパレルショップで共に働いた人たちは、温かい言葉を彼に送った。「なんか、できそうじゃない?」「やってみたらどう?」これらの言葉に、大きな意味はなかったのかもしれない。しかし、それは反対意見も変わらない。そして、これは紛れもなく末次司の人生。世間の常識がどうであろうと、彼が素敵な勘違いを起こそうと、誰に何を言われる筋合いはないのだ。

(TANOさんの似顔絵は、多くの人を笑顔にする。)

「『3匹のこぶた』の絵を描いてくださーい!」

そう伝えると、子どもたちは思いのままに筆を走らせる。それぞれの違うおうち、表情。多くの子どもたちが「3匹のこぶた」にフォーカスした絵画を完成させた中で、オオカミとその家族を描いた子どもがいた。

「オオカミにも家族がいるから。」

彼が先生を務める、大村市の絵画教室での出来事だ。

これだけではない。

桃太郎と鬼が雪合戦で対決する絵、海と空の配置が異なる絵……子どもたちの自由な発想を目にした彼は、当たり前という言葉の恐ろしさに気付いたという。子どもたちの発想に対して「普通はこうやって…」と大人が手を加えることで、それはその子の作品にならない。更に言えば、その子の可能性に蓋をしてしまうことになりかねない。

そしてこれが、独立を考えていた頃の自分自身の回りで起こったことと大きく重なった。

「いいね!やってみよう!」

その言葉で伸びるのは、きっと子どもだけではないはずだ。

(現在は大村市を拠点に、全国各地から届く依頼に対応中。)

4年目のTANOしみを前に…。

冒頭の話に戻ろう。

なぜプロモーションビデオを作りたいと思ったのか。

―似顔絵師がPV作るって、面白くない?

答えは至ってシンプルだった。

先の話の中で「たった1人で火を起こし、それを燃やし続けなければならない。」と綴ったけれど、それには少し語弊がある。

当時の彼はきっと、火起こし器しか持ち合わせていなかった。接客業で培った営業力が擦り合わさることで小さな小さな種火が生まれ、子どもたちの限りない創造力に掻き立てられて大きく燃え上がった。その炎は、彼に関わる全ての人たちを巻き込みながら今なお燃え続けているのだ。

独立から3年という節目を迎えた2020年9月。

自分にとって、似顔絵は人と人を繋げるためのコミュニケーションツール。貰った人も、渡した人も、その周りの人もハッピーになれるように。そんな似顔絵を届けたい。

そう語る彼からのプロモーションビデオ制作のお願いに、僕はこう答えた。

―いいですね!やりましょう!!

取材対象者 似顔絵art - TANO -
末次司さん
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ライター紹介

自分にとって、似顔絵は人と人を繋ぐコミュニケーションツール。|「似顔絵art-TANO-」末次司さん

ショートショート長崎/ながさき若者会議

長野 大生

長崎市出身のライター・編集者。2021年からは、長崎を舞台にした短編小説集を制作するプロジェクト「ショートショート長崎」の代表として、ショートショートの普及活動も行っています。