「本だけは、欲しがったら買いよったけんね。」
ライターの仕事をはじめて数ヶ月が経ったある日、母がぽつりとつぶやいた。
たしかに、記憶にある最初の誕生日プレゼントは動物と昆虫の図鑑だったし、ポケモンのアニメを見ることも許されなかったし(友だちとの会話についていけない僕を見かねて、後に母の意思でポケモンを見ることになる)、幼稚園児の頃のいちばん楽しい遊びは「先生の名前を漢字ノートに書く」ことだった。
おかげさまで僕はすっかり本や文章といった言葉の沼に浸かってしまい、誤解を恐れずに言うなれば、読んだ文章や聴いた歌詞にとても影響されやすい体質に育ってしまった。
和歌山県にある梅干店の熱意ある文章のおかげで嫌いだったはずの梅干しも食べられるようになり、東京にある個人出版社の文章のおかげで今回の取材相手に出逢うことができた。「きっと大丈夫」なんてメッセージ性の曲は、正露丸よりも効く。
僕はこれを、とても幸せなことだと思っている。
「子どもには本を読ませるべきだ!」というセリフはよく聞くし、僕自身も本を読んで育ってきたことで「良かったな」と思う部分は多い。けれども、これって当事者以外の人からするとそんなにピンと来ないのでは…?という疑問が頭の中でぐるぐると回っていた。
とは言え、本の虫でもない僕が「現代風・読書のすゝめ」なんてものを特集するのはちがう気がする。そうだな……じゃあ、本屋さんに行こう。
今回は、そんな僕の急な無茶ぶりに答えてくださった「本屋『ウニとスカッシュ』」店主・河原康平さんに話を伺った。
今回のインタビュー、「『本屋さん』と『読書』の話」と「本屋さんと(一緒に)読書の話」、どちらの視点でも楽しんでいただけたらいいなあと思っています。
「本屋さん」に聴いてみたかったこと
長野:ライツ社さんのインタビュー、読みました!「いつかお店のお話を聴けたら…」と思っていたので、すごくおもしろかったです。
河原:僕の話してる内容、大丈夫でした?取材を受ける度に思うんですが、言いたいことをまだ上手く言語化できてないなと思う部分がたくさんあって(笑)。
長野:ウニスカさんのnoteに、河原さん自身が開業しないといけないと思った理由も伝えたいと書かれていたので、僕はワクワクが残っているようで楽しいです(笑)。
早速ですが、ここに来る前からずっと気になっていて……仕入れた本って、さすがに全部は読んでないですよね?
河原:全部は無理ですね(笑)。お店に置いてあるポップも、中には僕がつくっているものもありますけど、著者の方が仕入れのときに同封してくださったりするんですよ。まだまだ工夫のしようはあるんですが、みなさんに助けていただいてますね。
長野:安心しました(笑)。SNSでは入荷された本の紹介がとても丁寧だなと思っていたので。長崎の本や小説はもちろん、絵本や写真集、それに個人やユニットで自主制作したZINEまで、幅広く入荷されていますよね。
河原:セレクトショップといっても、僕の好きな本だけを集める場所になってしまうとすごくハードルも上がりますし、趣味が合う人しか来なくなる(笑)。開店当初は家族連れの方も多くいらっしゃったので、絵本も入荷しています。
長野:ある時から「本屋さんをやってみたい」と思うことが度々あって……脱サラせずに本屋さんをやるって選択肢は選べないんですかね?
河原:実は僕も、はじめはそういった形で検討してたんです。でも、前職の就業規則上、副業がNGだったので。退職せざるを得ないなと。
長野:致し方ないという経緯だったんですね。あと、本に関わる手段もいくつかあると思うんです。本屋さん以外の選択肢もなかったのでしょうか?
河原:そうですね。書店員の経験もあったので尚更、本屋さん以外は考えなかったです。
各世代にお勧めの本を聴きました
「読む習慣がない人にとって、読書はつらいもの」というのもまた、よく聞くフレーズのひとつ。ただ、僕自身の少年時代を思い返してみると、読書の対象は必ずしも小説ではなかった。
というのも、冒頭で僕の母が指していた「本」には、漫画も含まれていた。ワンピースやスラムダンクといった王道漫画はもちろん、ドラゴンクエストやキングダムハーツといったゲーム漫画、更には、コロコロコミックや週刊少年ジャンプといった少年漫画誌に至るまで。
小説の類もたくさん読んできたけれども、それ以上に僕の部屋には漫画が溢れていた。
ここで僕が思うのは、読書の入り口はいつでも・どこでもいいということ。
いまやスマートフォンやタブレットで本が読める時代で、お店に行かずとも気になる本は数秒あればダウンロードができる。ブログサービスも充実しているから、作家でなくとも色々な人たちがつくった物語や漫画も読める。書き手はもちろん、読み手にとっても自由な世の中になっている。
ただ、それでも僕は本屋さんに通う。本屋さんでの偶然の出会いが、ワクワクが、僕にとっては代えがたい体験だ。
前置きが長くなってしまったけれど、今回は河原さんに「各世代におすすめしたい本」についてまとめていただいたので、ぜひ紹介したい。
1.未就学児~小学校低学年まで
小学生になる前までの記憶で印象に残っている本はないのですが、文字が入っていなくてもいいと思っています。「本に触れるのが当たり前」という環境をつくってあげてほしいなと思います。
小学生の頃は、「ドラえもん」のコミックを集めていました。表紙が気に入ったものから順に買ってもらっていたので、漢字が分からないときはふりがなを振ってもらったり……どんな年代になっても楽しめる本だと思います。
「子どもを助けるスーパーお助けロボット」という分かりやすい憧れの対象がいて、ズルしたりイジワルしたりすると、最後にはそれ相応の罰を受けるという善悪の良し悪しが1話できちんと描かれているのがすごい。
年齢を重ねて読み返すたびに「このセリフってこんなに深かったんだ」とか、新しい発見があるのも楽しいです。子どもの頃は嫌いだったのび太くんが、大人になって読むと良い子だということに気づきました。
2.小学校高学年~中学生まで
小学校高学年の子どもにおすすめしたいのは、ミヒャエル・エンデの「モモ」です。
私は大人になってから読んだのですが、どうしても話の中にある”時間”というテーマから「何か哲学めいたことを得ないといけない」という先入観があったんです。そういう本だという前情報の影響なのですが、純粋に物語として楽しみたかったなと。
子どもの頃は、ジブリ作品で描かれている深いテーマは考えずにファンタジーの世界に入り込めていたはずなのに。その感覚と似ています。
中学生には、宗田理さんの「ぼくらシリーズ」なんかはいかがでしょうか。
内容は忘れてしまったのですが、私が初めて買った小説でした。その後の続編も買っていたので、読みやすくて面白かったんだと思います。スラスラとはいかないまでも、最後まで読み終えた感動が忘れられません。読み終えられる本を選ぶことも、大切な要素のひとつだと思います。
3.高校生
中学生と大差ないかもしれませんが、巻数があるライトノベル。もうひとつは、1日で読める軽めのミステリーを描いている赤川次郎さんの本です。
小説の紹介ばかりになってしまいますが、プロの書いた文章を読める一番の近道なんです。大人になるにつれて、レポートや資料をつくる機会が出てきます。そのときに絶対に役立つはずです。
4.大学生、専門学生
特定の書籍はないのですが、自分の身になる本を探してみてはいかがでしょうか。本に慣れ親しんでくると、文字を読むのがたのしいと思えるようになります。そうなると読解力も向上していると思いますし、自然と読むスピードも上がりますよ。
5.大人になったら読んでほしい1冊
「ドラえもん」と「モモ」の再読です。
前編でお届けする内容はここまで。
後編では、河原さん自身の本の選び方や、読書に対する考え方についてお届けします。
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Photo by Miki Tahara