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目標を達成するための過程を踏めないと、そこまで辿り着けない。|「GRANT」代表 スポーツメンタルコーチの荒木 望美 さん

中学2年生、思春期真っ盛りの私はサッカー部に所属。当時の公立校にしては珍しくチームのマイクロバスがあり、週末になると先輩のお父さんの運転で県内各地の学校へ試合に行かせてもらっていた。

地デジが普及し、プロの試合を綺麗な映像で楽しめるようになった環境。デジタル化が進む中で登場したiPodやWalkmanといったコンパクトな音楽プレイヤー。試合はもちろん、試合前にガムを噛みながらヘッドフォンをつけて次々とバスから降りてくる代表選手たちに憧れを抱いた夏。一部の部員たちがその真似事をして、マイクロバスの中でガムを噛み、音楽を聴いた。そして後日、この事実を知った顧問の先生によって部員たちは呼び出された。

― お前たちの命を預かってるんだぞ!

そう言って往復ビンタをお見舞いされてしまった。ぐうの音も出なかった。めちゃくちゃ痛かったし、とてつもなく怖かったけれど、間違いなく先生の言うとおりだ。ここまでの内容で読んでくださっている方には伝わっているかと思うが、私自身もこの罪を犯した部員の1人だった。

それから時が経ち、競技はバスケットボールに変わったけれど、自らがプレイするスポーツに関わる人たちや、施設に対する敬意を忘れないよう心掛けるようになった。おかげさまで、いまの仲間もこのことを理解してくれているし、そんな仲間とスポーツを楽しめることはとても気持ちが良い。

この話はスポーツをするしない以前の問題だが、心を育むことで楽しめるという事実は何にだって言えることかもしれない。そして、これが顕著に表れるのはスポーツだと思うのだ。

私がスポーツをする上で最も大切にしていることは「楽しむこと」だが、心を育み、整えることで「目指している結果」を出すことだってできる。

今回は、そんな目標を抱く選手たちのサポートをしている「GRANT」の代表を務めるスポーツメンタルコーチ・荒木望美(あらきのぞみ)さんに話を伺った。

(今回取材にご協力いただいた荒木望美さん)

― まず、荒木さんのお仕事について教えてください。

荒木:スポーツメンタルコーチとして働いています。ひとことで表現すると、スポーツ選手のメンタルをサポートする人。ひとことじゃすぐ終わっちゃうよね。(笑)

― 具体的にはどんなことをされてるんですか?

荒木:例えば、スポーツ選手には「こうなりたい!」という目標がある。その目標設定が上手くいってない選手が多くて、いまの自分に対して大きすぎる目標を立てがち。もちろん、大きい目標を持つことも大切なんだけど、その目標を達成するための過程を踏めないと、そこまで辿り着けない。結果ばかりを求めすぎてしまう選手に対して、「こういうことからやっていきましょう!」って1つずつステップを踏めるように、そして最終的には結果にふさわしい選手になれるようなサポートやお手伝いをする仕事だね。

― プロの選手をメインにサポートされているんですか?

荒木:プロもそうだし、高校生や中学生のサポートもしてるよ。

― 学生ということは、「インターハイに出たい!」みたいな…?

荒木:そうなるね。「日本一になりたい!」という選手は地区大会の優勝はイメージできるけど、「県大会に出たい!」という選手がいきなり優勝のイメージを描くのは難しい。だから、県大会に出るための通過点を見極めてアドバイスをしないといけない。目標設定はとっても重要で、「いつまでに」「どんなステップを通過すべきか」もそれぞれ違うし、選手が生きてきた中での思い込みの部分も関係する。例えば「犬が嫌い」な人は「犬に噛まれた」という記憶があったり。スポーツも同じで、何かしらのきっかけや思い込みがあって、自分がやりたいと思っていることに対して進めない人も多い。その思い込みやジンクスをほぐして、導いてあげようと心がけているよ。

― ご自身のスポーツの経験は?

荒木:小・中・高はバレーボール。高校2年のときに半月板損傷で膝の手術をして、そこからしばらくバレーも出来なくて…部活に所属はしていたけど、そこでもう引退した状態だった。今はケガも治ったから、ちょこちょこプレイしてる。社会人になってからは、身体を鍛えたいっていうスイッチが入り~、フルマラソン走り~。全国各地に足を運んだかな…。

― フルマラソン!?

荒木:名古屋ウィメンズマラソンとか!このときは景品が良くて、ティファニーのネックレスとかもらえるっていうから、ネックレス目当てで走りに行っちゃった。(笑)

― それで走り切っちゃうのが凄い。(笑)

荒木:名古屋は3年くらい連続で走ったよ!そのあとウェイトリフティングにもしばらくハマって「オリンピック出る!」みたいな勢いでトレーニングしてた時期もあった。スポーツ経験は、バレー、マラソン、ウェイトリフティングだね。

(ハーフマラソンの大会にも出場されていたらしい…!)

― なぜスポーツメンタルコーチをやろうと?

荒木:本当は、高校卒業したときにスポーツトレーナーをやりたかったんだよね。だけど、その当時は「スポーツトレーナーで食べていけるのか」っていう不安があった両親の猛反対を受けて、一般の企業に就職した。そこで10年近く働いていたんだけど、たまたま行った本屋さんでスポーツメンタルコーチの本に出会って、「これ、私の仕事にできる!」「この仕事がしたい!」って強く思ったのがきっかけ。それから、この本を書かれていた鈴木颯人さんという方に「長崎でスポーツメンタルコーチになりたいです」って直接連絡して…。私の師匠だね。

― トレーナーとコーチは、別の職業になるんですか?

荒木:よく聞かれる!トレーナーってどんなイメージ?

― ここを鍛えるために、こうトレーニングをしよう!みたいな…。

荒木:そう、トレーナーは「鍛えていく」イメージ。対してコーチっていうのは、元々の語源が馬車。馬車は人を目的地まで運んでくれるよね。選手を「目的地まで運んであげる」「目指すところに導いてあげる」という意味でコーチ。私はトレーナーとしての勉強もしてきたから、今はコーチングとトレーニングを上手く掛け合わせて活動している感じ。

― 荒木さんに出会って初めて知った職業なので、すごく勉強になります!

荒木:長野くんもできるよ!一緒にやらない?(笑)

― 荒木さんが考える、スポーツにおけるメンタルの大切さは?

荒木:深いよね、メンタルの大切さ。プロで活躍しているトップ選手と、これからスポーツを始める人の心持ちって実は同じで、心からワクワクした状態。その間の選手っていうのがとても多くて、指導者や環境によって心の状態が変わってくる。「心が変われば、行動が変わる。行動が変われば、習慣が変わる。習慣が変われば、人格が変わる。人格が変われば、運命が変わる。」これはアメリカのウィリアム・ジェームズっていう哲学者の言葉なんだけど、まさにこれだと思う。

― 部活動の横断幕を見ても、心の部分を示すフレーズが多いですよね。

荒木:たしかにそうだね!ただ、トレーナー目線で見ると、体ができてないと心がついていけない場合もあるから、心技体のバランスも大切だと思う。心が欠けていたら体も動かないし、体ができていなかったら技も身につかないし!

(「選手それぞれに応じたアドバイスを心掛けている」と語る荒木さん)

― いまのお仕事での苦労を教えてください。

荒木:東京と長崎の差!東京では中高生の認知度も高いけど、まだまだ長崎では「スポーツメンタルコーチってなに~?」っていう状態。こっちでこの仕事を始めて1年ちょっとになるけど、はじめの頃はこういう声がすごく多かった。この仕事を長崎で認知していただくように頑張ることも私の仕事のひとつだなぁと思う。最近はテレビやメディアでちらほら見かけるようになったから、なんとなく雰囲気は分かるかもしれないけど、コーチングを受けることでどういうメリットがあるのかをもっと多くの人に伝えていきたい。「もう少し知ってもらえたら、もっと選手の力になれるのにー!」っていうもどかしさは感じてる。もちろん、私自身の情報発信が大事なんだろうけど…。

― サポートを待っている方は、絶対にいると思います!

荒木:コーチングの部分で言えば、コミュニケーションが上手くいかずに躓いている場合も多くて、選手自身が悩んでいることや思っていることを言葉にできないことがある。私と選手の間の信頼関係があってこそのコーチング。いきなり「スポーツメンタルコーチをやってます!」って知らない人が来て、いきなり本心を話すことは難しいから、選手にとって話しやすい環境をつくるっていうことにすごく注力してる。

― 続いて、いまの仕事のやりがいを教えてください。

荒木:選手に結果が出たときは本当に「よっしゃー!」って思うし、結果が出なかったとしても、選手の口から「このスポーツをやってて良かった」とか「こんな自分になれて良かったです」って言葉を聴いたときは、すごく嬉しい。試合に負けたからって相手を非難せず応援できるようになったりすると、選手自身の心の成長を感じることができるし…!

― 学生は特に、吸収が速そうですよね…!

荒木:そうなの!コーチングを受けてくれたことで私自身も成長させてもらっているのに、選手や保護者の方からも「ありがとうございました」って言葉をいただいたときには、本当に感動する。心からこの仕事をやってて良かったって思えるよ。

― 長崎で暮らす若者に、メッセージをお願いします!

荒木:一緒にスポーツメンタルコーチやりましょう!(笑)

― 直球が飛んできましたね!(笑)

荒木:いまの若い世代に「何がやりたい?」と聴いても、「分かりません!」っていう子が多いけど、それは全然悪いことではありません。私がこの仕事を目指したきっかけは本だったけど、掃除しているとき、お風呂入っているとき、そういう日常の中で何かを思いつくことは必ずある。どんなに小さなことでも、行動に移してみるだけで、やりたいことが見えてくることがあります。だからこそ、考えることをやめないでほしい。いまのあなたが長崎に居るということは、長崎で必要とされているということだから。

(取材場所のトラスタで最後にパシャリ!)

「長崎でスポーツメンタルコーチの仲間を増やしたい!」

そう語ってくれた長崎県唯一の協会公認スポーツメンタルコーチは、長崎県内で日々頑張っている選手たちの心を支え、目標達成のお手伝いをするという目標に向かって一歩ずつ進んでいた。彼女が自らの運命を変えたように。次に運命を変えるのは、いまこの記事を読んでいるあなたかもしれない。

取材対象者 「GRANT」代表・荒木望美さん
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ライター紹介

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ショートショート長崎/ながさき若者会議

長野 大生

長崎市出身のライター・編集者。2021年からは、長崎を舞台にした短編小説集を制作するプロジェクト「ショートショート長崎」の代表として、ショートショートの普及活動も行っています。