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まちブログ
長崎からエールを

「場づくりのシェア」に見る、コミュニティの在り方┃〈かっちぇて〉片山健太さん

長崎市小島地区にあるたまり場〈かっちぇて〉。

新型コロナウイルス感染拡大前には、地域の子どもから大人までが集い、勉強をしたり、教えたり、一緒に遊んだり……そういった光景を見ることができていたそうです。

今回は、シェアハウス兼コミュニティスペースとして活動の幅を広げようと模索している『かっちぇて』のはじまり、そしてこれからの未来像について話を訊きました。

コミュニティづくりに興味がある方や、子どもの居場所をつくりたい方、さらには地域との交流を深めたい方へのヒントをお届けします。

今回の取材にご協力いただいた方

片山健太さん

長崎市出身。山村留学を手掛ける長野県のNPO法人で働いた経験を生かし、長崎市で〈自然と暮らしの学校『てつなぐ』〉を発足。坂の上で眠っていた古民家を地域の子どもたちと改修し、たまり場〈かっちぇて〉をオープンした。子どもから大人まで気兼ねなく集まれるような居場所づくりを行っている。 (現在は週1回のオープン、春から平日放課後の開催も少しずつ再開予定)

「それぞれが持つ個性」を見出せる場を

長崎大学工学部にいた片山さんは、知人の勧誘で子どもたちのキャンプ指導を行うサークルの創設に携わることに。「高校時代から『大学を出て会社員として働く』という未来しか描けなかった」と振り返るように、進学そのものが目的となっていた彼を動かしたのは『出会いのチャンス』だったそうです。

片山:キャンプそのものに興味はなかったんですけど、女子が多いって聞いて。工学部って出会いが少ないので、「それなら行ってみようかな」って思ったのがきっかけだったんです(笑)。

僕は小さい頃から「かわいいかわいい」と大切に育てられてきたので、当時は料理もできなかった。子どもたちに教える立場の僕自身が教わることばかりで、やっていくうちに楽しくなっちゃったんですよね。

泥くさく暮らすキャンプの体験は片山さんの好奇心に火をつけ、周りの大人たちが「君に合ってるんじゃないか」と声をかけてくれることでさらにヒートアップ。活動を続けるうちに、こんな仕事をしたいと思うようになったそうです。

(大学時代のボランティア活動の様子)

当時の長崎にはキャンプの指導員として食べていける仕事もなく、県外での進路を検討する中で、山村留学を手掛ける長野県のNPO法人での就職を決意。念願の指導員となった片山さんでしたが、あるときを境にモヤモヤを抱えながら働くことになりました。

片山:参加してくれた子どもたちとの時間は僕にとって大切な思い出で、涙なしに3月に地元に帰っていく子どもたちを見送ることはできませんでした。ただ、同時に「この経験を届けたい子どもたちがもっといる」という考えに行き着きました。

1年間を通しての留学になるので、参加するために年間100万円以上のお金が必要。加えて、親御さんの理解がないといけないという2つのハードルをクリアした子どもたちしか参加できなかったんです。

それから長崎への帰郷を決意した片山さんは、長崎市内の高校へ転職。そこでも学業に苦難している子どもたちが多いことにショックを受けることに。その後、「それぞれが持つ個性や、自信の価値をもっと知ってほしい」という想いから、〈かっちぇて〉のオープンを決意しました。

(〈かっちぇて〉の玄関)

「地域の理解」は、自身の行動から生まれる

〈かっちぇて〉のオープンを決意した片山さん。「なるべく安価で、できれば使っていない家を譲ってくれる人がいればと動いていた」と半年以上の歳月を費やしたものの運に恵まれず、物件探しは難航を極めたそうです。

片山:やけくそで、Google検索をして見つかったのがいまの物件でした。安い順にソートして一番上に出てきた物件だったので、不動産の方も「本当に行くんですか?」と苦い顔でしたね(笑)。

いま思えば、時間もかかって本当に疲れていたのかもしれません。キノコも生えていたし、天井も落ちていたのに、「良いね!」と感動したことを覚えています。

「帰郷後は地域や学校のボランティア活動に汗を流していた」という片山さんの取り組みは、地域の方にもすぐに受け入れられたそうです。

学校の近くで、子どもたちに「工事を一緒にしませんか?」とチラシを配り、毎週末10人近くの子どもたちとの工事の日々が始まりました。

そうしてボロ家から生まれ変わった〈かっちぇて〉は、多くの方にとって愛着の湧く場所に。小中学生を中心にたくさんの人が集うようになった〈かっちぇて〉は、少しずつ「誰かにとっての居場所」として地域に根付いていったのです。

(改修作業に参加する地域の子どもたち)
(誰もが気軽に集える「たまり場」に)

「場づくりのシェア」で広がる可能性

コロナ禍の影響もあり、現在はオープンデーを休止しているという〈かっちぇて〉。そんな中でも、「新しい可能性を感じている」と片山さんは話します。

片山:ある大学生の子が「住ませてもらえませんか」と言ってくれたことで、いまはシェアハウスとしても活用しているんです。誰かに貸すという選択肢は考えたことなかったんですけど、彼の人柄にも惹かれて。

僕とは別軸で、彼自身もここを使った場づくりに励んでいるんです。彼なりの「場づくり」が生まれたことで、ここでは「場づくりのシェア」が生まれている。

僕がつくる〈かっちぇて〉が合わないという人ももちろんいるだろうし、逆も然り。そういう意味では、とても面白い環境になってきているのかなと思います。

ひとつのコミュニティに入りきれない人を無理に入れるのではなく、〈かっちぇて〉のようなたまり場が増える。そうすることで、「かっちぇて!」(仲間に入れて)と言いやすい世の中になると、長崎での暮らしがちょっとだけ豊かになるのかもしれませんね。

(お庭で交流する子どもたち)

「場づくりのシェア」という新しい切り口でまちづくりに挑む〈かっちぇて〉では、春からは、放課後オープンも再開できたらと準備を進めています。

「気になる!」という方は、ぜひお話を聴きに行ってみては…?

片山さん、とても勉強になるお話をありがとうございました!

自然と暮らしの学校「てつなぐ」 Facebook
片山健太さんについて 長崎空家ぼくめつし隊HP
山村留学「だいだらぼっち」について テラコヤプラス記事より

ライター紹介

「場づくりのシェア」に見る、コミュニティの在り方┃〈かっちぇて〉片山健太さん

ショートショート長崎/ながさき若者会議

長野 大生

長崎市出身のライター・編集者。2021年からは、長崎を舞台にした短編小説集を制作するプロジェクト「ショートショート長崎」の代表として、ショートショートの普及活動も行っています。