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まちブログ
長崎からエールを

自慢してもらえるような、思い入れのある作品になってほしい。|「CHEBLO」山田果林さん、山田桜子さん

我が家に第一子が産まれて、もうすぐ1年が経つ。

最近になって「まんま」を覚えた息子は、おなかが空くたびにその言葉を口にする。おなかが空いているから「まんま」なのか、「まんま」と言いたいから「まんま」なのか、分からなくなることもしばしば。何にせよ、息子は言葉を使って自分を表現することをはじめた。愛くるしい。

一方で、僕が文章を書き始めて、およそ1年が経った。

暇さえあればくだらないことを考えている僕は、こころがざわつくたびにその気持ちを言葉にする。こころがざわついているから言葉にするのか、言葉にしたいからこころがざわつき始めているのか、分からなくなることもしばしば。何にせよ、僕は言葉を使って自分を表現することをやめない。むさくるしい。

そんな僕は、「長崎を楽しくしたい」「長崎を盛り上げたい」なんて言葉を並べることが多々あるのだが、結局のところ「長崎の人に会えるフリーペーパーを出したい」。これに尽きる。そんなわがままを叶えるため、「餅は餅屋」を合言葉に、カメラマンを探し、デザイナーを探し、こうして「長崎の面白い人」たちを探しては、時間を取り繕っていただきインタビューをお願いしている。お見苦しい。

今回の取材は8月11日。2週間前に出会い、愛くるしい息子の写真を撮ってくれたカメラマンとむさくるしいチームを結成し、暑苦しい長崎の街を歩いて、出島にあるギャラリーへと向かった。

(入口。足を踏み入れるのが楽しみになるイラストでした。)

取材させていただいたのは、長崎を拠点に活動するエンターテインメントチーム「CHEBLO」(チェブロ)の山田果林さん、桜子さん姉妹。今回は、彼女らがCHEBLOとして活動するまでのストーリーと、密かに思い描く未来に迫った。

(CHEBLOの山田果林さん(左)と桜子さん(右)。)

―はじめに、CHEBLOについて教えてください。

果林:姉妹2人で活動するエンターテインメントチームです。妹(桜子)がイラストレーターとファイバーアート。私はデザインや運営、クライアントさんとの交渉などを担当しています。

―普段はどちらで作業をされているんですか?

果林:いまはリノベーションされた築60年の平屋を借りて、自宅兼制作場所として使っています。以前は長崎駅の近くに住んでいたんですけど、音が多くて…。立地で考えると便利だったんですけど、静かに集中して制作できるところに引っ越したいと思っていたんです。それが叶った形ですね。

―こちらで作業はされていないんですね。

果林:こっちはワークショップで活用したり、レンタルスペースとしてみなさんにご利用いただいています。

―レンタルスペース!僕でも借りられますか?

果林:朝でも昼でも夜でも、好きな時間に借りることができます!この狭さなので、小規模なイベントを行ったり、ミニシアターとして使ったり、個展のサポートをしたり。感染症もあるので、いまの時期は完全貸切にして予約があれば鍵をお渡しする形を採っています。今日も夏休みのお絵描き教室をやったばかりで。

―教室はおふたりで?

果林:そうですね。動物がうまくなりたいってことで、画用紙に少しずつ描いています。今日は色塗りがメインで。

―1回きりじゃないんですね。

桜子:週1で来てくれて、頑張って作っていますよ。

―そうなんですね!実は「織り」のAirPodsケースがとても気になっていて…。

果林:ぜひ!どのデザインでも、気に入ったもので作りますので。

(これまでの作品をまとめたものを見せていただきました)

―どうしてCHEBLOを立ち上げようと思ったんですか?

果林:私、中学生くらいの頃から漠然と「自分の会社を立ち上げたい」と思っていたんです。デザインをすることも、2人でしていくことも、何も決めていなかったんですけど…。妹は名前が桜子なので、CHEBLOという名前で個人的に制作をやっていたんですよね。

―Cherryblossomの略…?

桜子:そうなんです!

果林:2人とも、大学卒業後は父のデザイン事務所に居たんですけど…。

―お父さんもデザインをやられている方なんですね。

果林:実は、母も中学校の美術の先生なんです。それもあって、小さい頃から私たち姉弟3人は何かを作ったりするのが好きだったんです。一緒に作ることはなかったんですけど、お互いに「何かを作っている」という認識はあった。

そんな中、私の先輩から「結婚式の余興を頼めないか」っていう依頼があったんです。

「ダンスは踊れないからどうしよう…。」って思っていた時にふと、その先輩が大好きだったジブリのアニメーションを作ろうかなって考えが過ったんです。アニメーションなんて作ったことなかったけど、(持ち時間の)3分くらいだったらいけそうって何となく思っちゃって。

私はそんなに絵を描く方じゃないんですけど、妹がいろんなジャンルの絵を描けることは知っていたので「ジブリ風の絵を描いてほしい」と言ったら、いいよって快諾してくれたんです。そこからアニメって1秒に何枚描くかとか調べて、大変なことになるってことに気付いて。(笑)

―アニメって、パラパラ漫画みたいな考え方なんですか?

果林:そうです!ジブリはコマ数が多くて、1秒に24枚の絵を描いてるらしくて。ただ、1秒に24枚で3分だと考えると、かなり膨大な量になる。1ヶ月半しかないからそれは無理。色々考えて「多少動きの滑らかさは落ちるけど、半分の12枚でもいけるらしいから、2,000枚くらい描こう!」ということで話がまとまった。

そこからストーリーやキャラクターデザインを考えた。森で先輩が歩いてたら奥さん風の天使に会って、仲良くなって結ばれる話にしよう!みたいな。妹が線画を描いて、私がそれに色をつけるっていう作業をひたすらやった。

制作時期は夏。当時の家はエアコンが効きづらくて、毎日の睡眠時間は3時間くらいっていう生活が1ヶ月半続いた。やったことがない、アニメーションが上手くいかない。最後の最後まで苦労して、式直前のギリギリのタイミングで完成したんです。

当日は私だけ式に参加したんですけど、大きいスクリーンで上映されて、先輩がめちゃくちゃ喜んでくれて。それが本当に嬉しかった。その話を家に帰って妹にしたら、「やってよかったね!」って言ってくれたんです。もうやりたくないって言われてもおかしくないのに、そう言ってくれたので「2人で一緒に作るのもいいな」「妹とだったらやれるかも」ってそのとき思ったんです。

ひとつアニメーションをつくった実績と言うか、2人で色んな知り合いに「こういうことやれます」って少しずつアプローチをしていたら、ポスターを作ってほしいとか、ありがたいことに少しずつ依頼してくださる方が増えてきて。名前はずっと妹が使ってたCHEBLOをそのまま使って、チーム名にしました。

―由来まで聴けたらと思っていたんですが、ぜんぶ詰まってました。

(どこに目を向けても可愛らしいデザインの素敵空間でした。)

果林:最近は企業さんからのご依頼で、オリジナルグッズを作ることも多くて。やっぱりこう、企業を認知してもらうために、親しみやすさと言うか…。

桜子:幅広い方に向けて配りたいので、ロゴマークの入ったグッズ作れないだろうかとか、そういうものも…。

果林:ノベルティ系の。

桜子:とある企業さんの案件では、社長さんが飼われている黒猫をモチーフにして作らせていただいたりとか。これまでは綺麗で落ち着いたパンフレットを作られていたんですけど、20代の方々にも来ていただきたいと考えられていたので、キャラクターを使ったデザインと、付録で漫画もつけたんです。いま、海外のアートフェアに参加したりしている知り合いにつくってもらって…。訪問介護がどんな仕事かっていうのを、福祉パンフレットっぽくない感じで。

―(興味が)そそられると言いますか…!

果林:ですです!

(机に並ぶバリエーション豊かな作品の数々。)

―将来、「この本読めばこの人に会える!」っていうフリーペーパーみたいなものを出版したいと思っていて。表紙のデザインなどお願いしてもよろしいでしょうか…?

果林:あぁ、もう全然!長崎で活動してる人ってだけで、気になって見ちゃいますよね。クリエイターさんのイベントに行ったときに初めて会う方も多くて、長崎にはこんなにものづくりしてる人いるんだって、そこで知ることも結構あるんです。

―クリエイターさん同士で出会う機会も少ない?

果林:そうなんです。「この作品、誰が作ったんだろう?」って思っても、調べていかないと分からなかったり、調べても県外の方に発注されてる方も多い。もっと言えば、本職が別にあって、趣味や副業で制作されている方たちの中にも凄い人たちはたくさんいるので。そういった方たちがまとまって見つかるところってなくないですか?「長崎クリエイター検索!」みたいな。(笑)

―インスタで「写真やってる!」って方もたくさんいますよね。でも、なかなか個人に向けてアプローチしづらい…。

果林:素敵な方はたくさんいるけど、それがお仕事なのか、趣味なのか。個人的に好きな方はいるんですけど、何か一緒にしたいと思ったときに、果たして「ご依頼できるのか」っていうところもですね。迷惑かなとか思っちゃったりする。

―めちゃくちゃ分かります…。

(果林さん、桜子さんのお話に深く頷く時間が続きました…。)

―お仕事のやりがいを教えてください。

桜子:作品を出したときに、「思ってた通りです」と言われることはもちろん、「思ってた以上です」とか「(良い意味で)こんなになるなんて思ってなかった」という言葉をかけていただけると、やってよかったなぁって思う。

果林:私もそれは嬉しい。あとは、クライアントさんと一緒に何かを作れたとき。ご依頼の中には「いい感じにしてください」としか言われないときもある。そういうときに丁寧にヒアリングして、その方が考える「いい感じ」が何なのかを聴いて…。その分時間はかかってしまうけど、イメージ通りのものを届けられたときはとても嬉しい。

―逆に「難しいな」「大変だな」と思うときは?

果林:やったことないことをご依頼いただいたとき。「挑戦させていただけるチャンスだな」って思うんですけど、本当に手さぐりになったり、色んな先人の知恵を調べたり。そこは難しさを感じてます。ただ、本当に大変なのはビジョンが全くない人。(笑)

桜子:本当にそう。「なんか違うんですよね~」の繰り返しで、永遠に修正するっていう。(笑)

果林:そのときは大変だね。私たち自身のヒアリングが不十分だったこともあるんですけど、最初の頃はかなり苦労しました。

桜子:「お任せします」の一点張りも難しい。「ん?」ってなっちゃう。

果林:クライアントさんにも、私たちと一緒に「作る責任」を背負ってほしいと思っています。お互いが納得できる方向に、ですね。

桜子:本当に好きにしていいんだったら、ごりごりのポップな感じに…。(笑)

果林:なっちゃうよね。(笑)

桜子:ご依頼してくださる方のイメージに合致しないと、作っても意味がないんです。ぜひ、「私のイメージがうまいこといった」って自慢してもらえるような、思い入れのある作品になってほしい。

果林:納品後の作品と私たちが関わる機会は限られるから、お客様ご自身が満足したものが手元に残る方がいいかなと。

―好みの作風じゃない依頼に、ストレスは感じない?

果林:もちろん難しいです。ただ、いい機会をもらったなと。

桜子:自分から思い立って、「よっしゃー、水彩画描こう!」とはあんまりならないので。そういったご依頼があると自分にないものを描くきっかけになるので、それは面白いなあと。

果林:ありがたい。

―そこは、割とクリエイターさんたちは分かれるところかなと。

果林:色がはっきりされている方…「これはこの人の作品なんだ」って分かるタイプの方と、私たちみたいにいろんなジャンルを手がけるタイプといらっしゃると思うんです。そんな中で、私たちらしいデザインに興味を持ってくださる方もいらっしゃるし、色々描けるところを評価してくださってる方もいらっしゃって。どちらもすごくありがたいです…。

―大変と感じる一方で、ストレスは感じていないんですね。

桜子:「これをどんなふうに描こうかな?」って考えるのが、すごく楽しい。

果林:喜んでもらえたら、「いえーい!」ってなるもんね。(笑)

桜子:「描いたことなかったけど、めっちゃ喜んでもらえた~!」って。(笑)

(ひとつひとつの質問に、丁寧に答えてくださいました。)

―これからやりたいこと、かなえたい夢があれば教えてください。

桜子:フェスをしたいなと。

―フェス…?

桜子:アートはもちろん、いろんなジャンルの人や企業さんをかき集めて、長崎の人たちが参加するフェスを、長崎に居る人たちだけで創りあげることができたらいいなあって。

長崎は結構、住んでる人から「なんもない」って言われることが多い。それで「なんもないね」って言って出ていく人たちが減らなかったら、永遠に「なんもない」。

実際は「なんかある」んだけど、もうちょっと知る機会が必要というか。技術を持っている会社も、人も。そういう人たちも巻き込むことができれば、若い人たちも興味を抱いてくれるかもしれない。おいしいものも素敵な歌も、ぜんぶそこで知れるみたいなフェスがあったら楽しそうだなあって。

果林:ぜんぶ長崎の人たちで。出店もそうだし、協賛の企業さんもブースを出してもらって、パンフレットが置いてあったり、そこで会社の話が聴けたり。楽しいイベントの中で、企業を知る、おいしいものも知る、アーティストさんも知る。長崎県下全域の楽しいを集めたイベントが出来たら、長崎に居たいと思う人も増えるんじゃないかなって思ってる。

年1回であれば、企業さんも「来年はどうする…?」「去年は〇〇したけど…」っていう一体感じゃないですけど、長崎にいる意味を見出せる。

桜子:でっかい交流会みたいな!「ああいう人がいるんだ~」っていうのもそうだし、「あそこの企業さんはああいうのも作りよるとか~、ちょっとこっちのラインで新しく挑戦してみようか」とか、「うちも負けてられんばい!」とか。色んな知るきっかけが楽しく増える。そんなことを漠然と考えてます。

―やりたい…。

果林:やりましょう。

桜子:規模が大きすぎて、とても2人じゃ無理なので。(笑)

果林:申し訳ないけど、タイトルだけは私たちで決めさせてもらって…。

桜子:「ごつか」って言うんですけど…。(笑)

―めっちゃいい!!

桜子:ローマ字で書いて「GOTSUKA」。そのTシャツをスタッフさんみんなが着てて…。「今年、GOTSUKA行く?」みたいな会話をしてもらって、規模が大きくなったら「ばりごつかフェス」っていうのにしたくて。(笑)

お見合いみたいにかしこまったものじゃなくて、楽しんでる人同士の出会いもあって…もう、そこで出会って、勝手に幸せになってほしい。(笑)

―僕は長崎で「コンテンツの地産地消」を実現したいです。

果林:ぜひぜひ、一緒に「ごつか」やりましょう!

(「ごつか」の会場にはこんな案内が並ぶのか…!?)

―長崎で暮らす若者にひとことお願いします!

果林:さっきのごつかじゃないですけど、長崎のことをもっと知ってもらえるようなイベントを、自分たちや上の世代が作って、若い世代から「長崎っていいよね」って気軽に言ってもらえるようにしていきたいなって思ってます。もっと言うと、今後CHEBLOが大きくなればリクルートもやりたいと思っているので。ぜひ長崎で、なにかしら、どこかしら就職してもらって。(笑)

長崎の好きなところとか、長崎だからこそこういうところが好きだって思えるところを見つけてほしい。いまはきっと遊びたい気持ちの方が強いだろうからピンと来ないかもしれないし、「なんもない」って思ってる子もいると思うけど、自分たちで楽しいことを作って、もっと知りたいと思えるように。

そういうことをCHEBLOと一緒にやれたら、私たちも嬉しいです。

(ファイバーアート、気になる方はぜひ足を運んでみては?)

思いつきで最後までやり切ってしまうひたむきな姿勢。苦労をあっけらかんと笑い飛ばすパワー。何事もチャンスに変えてしまう柔軟性。夢を語る彼女らの目はキラキラしていて、溢れだすエネルギーは誰よりもごつかった。

そして、そんな彼女らのエネルギーを肌で感じた僕のこころは、とんでもなくざわついていた。

取材対象者 CHEBLO(チェブロ)
山田果林さん、山田桜子さん
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長崎市出島町5-3 村川ビル2-D
※現在は完全予約制

Photo by … 米満 光太郎

ライター紹介

自慢してもらえるような、思い入れのある作品になってほしい。|「CHEBLO」山田果林さん、山田桜子さん

ショートショート長崎/ながさき若者会議

長野 大生

長崎市出身のライター・編集者。2021年からは、長崎を舞台にした短編小説集を制作するプロジェクト「ショートショート長崎」の代表として、ショートショートの普及活動も行っています。