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視点はこども、支えるおとな vol.2┃こども支援「クラムボン」吉岡詩織さん

今回も、長崎市西海町にある「こども支援『クラムボン』」の管理者・吉岡詩織さんへのインタビュー。

前編では、吉岡さんが私立高校教員や青年海外協力隊を経て”障がい児教育”に関わったきっかけや、クラムボン開設に至るまでのお話。そして、後編となる今回は、放課後等デイサービスでの試行錯誤や子どもたちの変化、吉岡さん自身が大切にしている想いについて紹介していきます。

前編の記事はこちら

(取材にご協力いただいた吉岡詩織さん)

放課後等デイサービスと児童発達支援について

放課後等デイサービスとは?

障害のある就学児童(小学生・中学生・高校生)が学校の授業終了後や長期休暇中に通うことのできる施設です。

(株式会社LITALICO, LITALICO発達ナビ放課後等デイサービスとはどんな施設?サービス・利用方法・費用・受給者証手続きの流れをご紹介より引用)

一般的に「放デイ」と称される放課後等デイサービスは、運動や書道、絵画などのプログラムに特化した習い事型、自由に過ごしながら生活に必要な能力を養う学童保育型、行動面やコミュニケーション面など個人に合わせた療育を行う療育型と主に3つに分かれるそうです。

児童発達支援管理責任者が必要であったり、従業員も保育士や児童指導員などの有資格者である必要があるなど、法令で定められた基準をクリアした場合のみ開設できる施設ということで、保護者が安心して子どもを預けられる場所であることが伺えます。

児童発達支援とは?

障害児通所支援の一つで、小学校就学前の6歳までの障害のある子どもが主に通い、支援を受けるための施設です。日常生活の自立支援や機能訓練を行ったり、保育園や幼稚園のように遊びや学びの場を提供したりといった障害児への支援を目的にしています。

(株式会社LITALICO, LITALICO発達ナビ児童発達支援とはどんな施設?サービス・利用方法・費用・受給者証手続きの流れをご紹介より引用)

放デイとは異なり、未就学児が対象となる児童発達支援。障がいのある子どもにとっての困りごとに気づき、その困難を乗り越えるサポートをしたり、そのための方法を学ぶ支援を行っているそうです。

子どもに対するサポートはもちろん、保護者にとっては身近に相談できる場所でもあります。家族だけで抱えることが難しい悩みや困りごとを解決できるような環境づくりや、子どもを一時的に預けて保護者がリフレッシュできるという利点もありますね。

放デイや児童発達支援に関する詳しい情報は、発達障害ポータルサイト・LITALICO発達ナビさんで詳しく解説されているので、気になる方はぜひ活用されてみてください。僕も取材前後で、とても勉強させていただきました。


活動の中には、あのスポーツも…?

― 2月にクラムボンを設立されて、利用状況というのはいかがですか?

吉岡:実際に子どもたちが入ったのは3月からだったんだけど、月間で平均すると5.8人くらいかな…。うちの規模だと1日10人は利用してもらえるから、未就学児が活用してもらえるように頑張らないと!

― 現状、放デイの利用者さんの方が多いんですね。未就学児の頃から活用できると、小学校に上がってからも気軽に立ち寄れる場所になりそうなイメージがあります。

吉岡:そう、いまは放デイがメイン。未就学児の子どもは2人だけなんだけど、放デイがスタートする14時くらいまではまだまだ余裕があるので。クラムボンができるまでは畝刈地区が一番近くだったから、そういう意味では琴海地区での認知度を広めていかないとなって思ってるよ。

― この記事も、1人でも多くの方に読んでもらえるように頑張ります…!

続けて、放デイでの活動内容についてお伺いしました。

吉岡:放課後や夏休みの活動っていうのは、毎日決めてる。公園に行ったり、習字教室や川遊びをやったり……あと、モルックとか!

― モルック…?

吉岡:そう、モルック。近ごろ、琴海のスポーツとして盛り上がってるって聞いて、従業員さんが借りてきてくれたの。知ってる?

― それ、広げてるの僕の友だちです…(笑)。

ここでモルックが出てきたことにびっくり。モルックと僕の友だち(そして僕)の関係については、以前掲載した記事に詳しく書いているので、ぜひ合わせて読んでみてください。

他にも、吉岡さんの祖母が使っていた畑を活用して野菜を育てたり、育った野菜をみんなで食べたりなど、遊びだけでなく自然体験も取り入れているそうです。(なかなか施設を離れられない吉岡さんに代わって野菜のお世話をしてくれている従業員さんには頭が上がらないとか…!)

スリランカカレーをつくることも(提供:吉岡詩織さん)

肌で感じる「子どもたちの変化」

次に、実際に利用している子どもたちとの日常についてお伺いしました。ひとえに「特別支援」と言っても、抱えている課題はそれぞれ。どういった場面で難しさを感じ、どういった形で乗り越えているのでしょうか。

吉岡:子どもたちの課題の話をすると、色んなことがあります。マスクを噛んじゃう子がいるんだけど、その時は特に難しいなって思ったの。「なんで噛むの!」っていう気持ちじゃなくて、「どうしたらいいんだろう?」っていう焦りの方が大きかった。

― このご時世だから、尚更ですよね…!

吉岡:マスクが当たり前の世の中だもんね。「こうしたらいい」っていう経験は培ってきたけれど、それでも初めて直面する専門的な分野。そういうときは「まだまだだな」って思います。

― 「こういう場面はこうしよう」といった部分も多いですか?

吉岡:そうだね、誰かが遊んでるものをパッと取っちゃう子がいるんだけど、「奪いたい」って悪気はないのね。興味があるものを見つけたら、そこに集中して視野がどうしても狭くなる。そういうときは、名前を呼んであげたり、それでも夢中だったら肩をたたいてあげたり。小さなことかもしれないけど、「僕も(遊びに)入れて」って言えたときはすごく嬉しいです。

― 小さなことの積み重ねでも、それがその子にとっての大きな一歩かもしれないですね。ご家族にとっても、自分の目が届かないところでの成長を感じられたら嬉しいと思います。うちも、保育園での成長を聴くだけで誇らしい気持ちになります(笑)。

吉岡:内気だった子が、環境に慣れて声が大きくなるっていう変化も嬉しいよ。そういう意味で言うと、学校や家ではちゃんとできるのに、ここに来たら甘えちゃうって子もいるんだよ(笑)。弟や妹がいると、お兄ちゃんらしくしないとって思っちゃうのかもしれない。

― 「課題を解決しなければいけない場所」でしかなかったら、子どもたちも構えてしまうような気がします。成長は必要だけど、いまの話を聴いていると「心を許せる場所」としても機能しているのかな…という感じがします。

入り口では、子どもたちが育てるトマトがずらり。
こども支援クラムボン https://kuramubon-k.com/
所在地 〒851-3101 長崎県長崎市西海町1725-26
連絡先 095-894-9905

経験のない事象に直面したときは「どうしてこんなことをするんだろう」と、子どもの目線に立って考えることを意識しているという吉岡さん。

― わたしの「正しい」を、押し付けてはいけないと思うんです。

取材の終わり際、そのように話した吉岡さんがとても印象的でした。

鶴南特別支援学校への転職を機に、特別支援に携わり続けてきた吉岡さん。「クラムボン」にチャレンジした背景には、国内外での経験と、親子二人三脚の体制。そして、それらを繋げたいくつかのキッカケがありました。

「なんとなく聴いたことがある」くらいの印象だった特別支援、そして放課後等デイサービスでの取材を通して、僕は「今年度のテーマは『暮らしと学び』にしたい」と感じずにはいられませんでした。

取材の下調べや実際の取材の中で、行政、企業や団体、そして個人と、長崎がより暮らしやすい場所であるために試行錯誤を続けているという事実。そして、僕たち自身が気付いていない暮らしのヒントが見えてきたからです。

いまの長崎で働き、暮らしている人たちの価値観に触れることで、知られざる長崎の魅力に出逢えるはず。

【次回の予定】
2021年2月にオープンした「本屋ウニとスカッシュ」さんへお邪魔してきます。「本だけは欲しがったら買う」という子育て方針のもとに育った僕、取材準備の段階でいろんな本が浮かんでいます…!

ライター紹介

視点はこども、支えるおとな vol.2┃こども支援「クラムボン」吉岡詩織さん

ショートショート長崎/ながさき若者会議

長野 大生

長崎市出身のライター・編集者。2021年からは、長崎を舞台にした短編小説集を制作するプロジェクト「ショートショート長崎」の代表として、ショートショートの普及活動も行っています。